ランチは会場内のフードエリアで済ませた。食べ終わったあと、近くにあったEXPOオフィシャルショップに立ち寄った。
麻衣はミャクミャクのキーホルダーを見つけて買った。990円。息子へのお土産だった。「これ実物見たら泣くかも」と言ったら香織に笑われた。
「泣かないって」
「ミャクミャクって最初こわいって言ってたのに最近好きになったから、案外感動するかもしれない」
香織はミャクミャクの缶バッジを娘用に買った。220円。「安い」と言った。
「静けさの森」は会場の南の端の方にあった。
地図で見ると、目的地というよりは「通り過ぎる場所」のような位置にある。わざわざ目指していく人は少ないのか、案内看板のそばを歩く人もまばらだった。
森の入口に入ると、空気が変わった。
1,500本の樹木が植えられているという。高い木は3メートルほど。それほど密ではないが、複数の種類の木が混ざって植えられていて、夏の光が葉の隙間からまだらに落ちていた。
「涼しい」と香織が言った。
ミストウォールとは別の涼しさだった。木陰の静けさとでも言うような、穏やかな温度だった。
ベンチがあった。木製の、シンプルなベンチだ。二人はそこに座った。
しばらく、何も言わなかった。
遠くからパビリオンの音楽が聞こえてくる。でもそれがここまで届く頃には、ただの遠い音楽になっていた。
「来てよかったな」と麻衣がつぶやいた。
「うん」と香織も言った。
「この森、帰る前に来ようと思ってたけど、今来て正解だった」
「なんで?」
「午前中ずっと動いてたから。ちょっと座りたかった」
香織が笑った。「それ正直だな」
「でもさ」と麻衣は続けた。「この森、万博の会場に作った意味、わかる気がする」
「どういう意味?」
「万博ってなんか、すごいもの見て、最新技術感じて、ってのが主役じゃないですか。でもここは、それと全然関係ない。ただ木があって、ベンチがある。それだけで」
「それが必要、ってこと?」
「なんか、あってもいいなって思った」
香織はしばらく黙っていた。
「子ども連れてきたら、ここで休めそう」と香織が言った。
「絶対そう。うちの息子はNTTパビリオンで絶対飽きる。その後ここに連れてきたい」
「次来る気あんじゃん」
「ある」と麻衣は答えた。「息子連れてもう一回来たい」
17時のぞみに乗るため、15時に会場を出た。
夢洲駅から中央線に乗り、本町で御堂筋線に乗り換えて、新大阪。ホームで新幹線を待ちながら、麻衣は息子に買ったミャクミャクのキーホルダーをカバンから出して見た。
白地に赤いまだら模様。くりくりした目が複数ついている。
最初に見たとき、小学一年生の息子は「こわい」と言った。でも今は「持ってる」と言う。子どもの好みはよく分からない、と麻衣は思う。
「喜ぶかな」
「喜ぶよ」と香織が言った。「絶対」
のぞみが入線してきた。
名古屋まで45分。夢洲の一日が、静けさの森のベンチとともに、麻衣の中に残っていた。