電話が鳴ったのは、午前四時だった。
神崎は眠れずにいたわけではなかった。ただ、昨夜のことが薄皮一枚の下に沈んでいるような眠りだった。受話器を取るまでの二呼吸の間に、神崎はすでに目が覚めていた。
「神崎さん」
杉田の声だった。
「江川総裁が見つかりました」
短い間があった。
「常磐線の線路上で」
それだけで、神崎には十分だった。
現場は北千住の手前だった。
夜明け前の空が青白く滲み始めた頃、神崎は現場に着いた。
線路の上に、白いシーツが被せられていた。周囲に日本の警官が数名。しかしその輪の外に、もう一重の輪があった。GHQの車両が三台。そしてその中心に、神崎の知らない顔があった。
背の高い米軍将校。がっしりとした体格に、几帳面に折り目のついた軍服。五十代の前半か。白い額に汗の粒が光っていた。
その横に、杉田が立っていた。
神崎は近づかなかった。
(ムーア大佐だ)
会ったことはなかった。しかし、その立ち方が命令書の差出人を告げていた。あの「直接来た」命令の発信源が、今ここにいる。
白いシーツの下に何があるかは、見なくてもわかった。
神崎はシーツの位置と、線路の方向と、周囲の地形を目で測った。
(ひとりで来られる場所ではない)
確信だった。
この時刻に、このルートで、この場所に、一人の人間が辿り着くことを想像した。江川は昨夜、公用車を降りてからホテルに入り、秘書も連れずに出てきた。それから先は、神崎には見えていなかった。
しかしここは——常磐線の線路だ。北千住の手前。駅からも、主要な道路からも、徒歩では来にくい。
(誰かが連れてきた)
あるいは。
(誰かが連れてきて、ここに置いた)
朝の光が、線路の錆を照らし始めた。
遠くで機関車の汽笛が聞こえた。神崎は煙草を取り出したが、火をつけなかった。煙草を指に挟んだまま、白いシーツを静かに見ていた。
シーツの下で、昨夜の温和な顔と疲れた目が、もう動かなくなっている。
五十四、五の、文具店の主人のような顔が。