七月下旬、新聞に三浦の名前が出た。
「国鉄三鷹事件、主犯格として三浦功を逮捕」
神崎は新聞を畳み、卓袱台に置いた。
しばらくそれを見ていた。それから立ち上がり、コートを取り、神保町の路地を出た。
コロナへ向かいながら、神崎はゴールデンバットに火をつけた。煙が東京の夏の湿気に溶けた。歩きながら煙草を吸うのは、神崎の習慣ではなかった。今日は吸わずにいられなかった。
杉田には前日に連絡を入れてあった。
* * *
コロナに入ると、杉田がすでにいた。窓際の定位置だった。
神崎は向かいに座り、珈琲が来る前に言った。
「三浦は関係ありません」
杉田は眉を動かさなかった。
「根拠は」
「私が福島で三ヶ月観察した印象と、彼の行動記録です。三浦は組合員ですが、過激な行動には参加していない。彼に電車を動かす動機もなければ、準備した形跡も見当たらない」
「印象か」
「観察です」
神崎は続けた。「三月から六月まで、私は三浦を複数回観察しました。彼は組合に籍を置いていますが、集会では発言を控え、行動的な組合員とは距離を置いていた。あの男が今回の件に関与しているとは、私には思えません」
杉田は珈琲をゆっくり飲んだ。
「それは」と杉田は言った。「あなたの感想だ」
微妙な間があった。
「もう決まったことだ」
神崎は黙った。
「決まったとは、誰が」
「上だ」
杉田はそれ以上言わなかった。神崎も、それ以上聞かなかった。
珈琲が来た。神崎はカップを両手で持ち、飲まなかった。
(上だ)
その言葉の重さが、杉田の口から出ると、妙に軽く聞こえた。軽いほど、重かった。
三浦功。四十三、四の、子煩悩な運転士。
その男の名前が、新聞の活字になっていた。
― 続く ―