三浦功と最初に会ったのは、三月の終わりだった。
福島の駅前の食堂で、神崎は「国鉄職員の友人を持つ男」という設定で組合関係者に接触していた。その席に三浦がいた。
四十三、四だろうか。背が低く、肩幅だけがやたらと広い男だった。運転士の体だと、神崎はひと目で思った。長年ハンドルを握ってきた人間の、特有の肩の張り方をしていた。
「三浦です」
その男はそう言いながら、神崎に片手を出した。大きな手だった。
「神崎です」
「組合には入っていますか」
「いいえ」
「そうですか」
それだけで、三浦は特に気にした様子もなく食事に戻った。
三浦と何度か話す機会があった。
彼は組合員だったが、会議ではほとんど発言しなかった。丹羽が熱弁を振るっている間も、三浦は隅に座って茶を飲んでいた。神崎が感情的な演説に揺れる組合員の顔を観察している間、三浦も同じように観察しているように見えた。
ある日、二人で駅前の蕎麦屋で昼飯を食べた。
「過激なことはしたくないんです」三浦はどんぶりを前にしながら言った。「家に帰れば飯が待ってるから、それで十分だ」
「家族は」
「女房と、子供が二人。上が十二、下が九です」
三浦は蕎麦を一口すすり、笑った。
「下の子が、電車が好きでね。俺の乗る電車を毎朝送ってくれるんですよ。おとうさんの電車だって言いながら」
それだけの話だった。
しかしその笑い方が、神崎の記憶に貼り付いた。自慢でもなく、溺愛でもなく、ただ日常として話す父親の笑い方だった。
(三浦は関係ない)
それは確信だった。
感情ではなく、神崎が春の間に蓄積した観察の積み重ねが、そう言っていた。あの男は、ハンドルを握って電車を走らせることを仕事にした男だ。家に帰って、子供が電車を好きだと笑う男だ。
夜中に無人の電車を動かして、六人を殺す男ではない。
そういう男の顔を、神崎は知っていた。