占領下奇譚 · 第四話「無人列車」

昭和二十四年三月(回想)、福島

三浦功と最初に会ったのは、三月の終わりだった。

福島の駅前の食堂で、神崎は「国鉄職員の友人を持つ男」という設定で組合関係者に接触していた。その席に三浦がいた。

四十三、四だろうか。背が低く、肩幅だけがやたらと広い男だった。運転士の体だと、神崎はひと目で思った。長年ハンドルを握ってきた人間の、特有の肩の張り方をしていた。

「三浦です」

その男はそう言いながら、神崎に片手を出した。大きな手だった。

「神崎です」

「組合には入っていますか」

「いいえ」

「そうですか」

それだけで、三浦は特に気にした様子もなく食事に戻った。

*  *  *

三浦と何度か話す機会があった。

彼は組合員だったが、会議ではほとんど発言しなかった。丹羽が熱弁を振るっている間も、三浦は隅に座って茶を飲んでいた。神崎が感情的な演説に揺れる組合員の顔を観察している間、三浦も同じように観察しているように見えた。

ある日、二人で駅前の蕎麦屋で昼飯を食べた。

「過激なことはしたくないんです」三浦はどんぶりを前にしながら言った。「家に帰れば飯が待ってるから、それで十分だ」

「家族は」

「女房と、子供が二人。上が十二、下が九です」

三浦は蕎麦を一口すすり、笑った。

「下の子が、電車が好きでね。俺の乗る電車を毎朝送ってくれるんですよ。おとうさんの電車だって言いながら」

それだけの話だった。

しかしその笑い方が、神崎の記憶に貼り付いた。自慢でもなく、溺愛でもなく、ただ日常として話す父親の笑い方だった。

*  *  *

(三浦は関係ない)

それは確信だった。

感情ではなく、神崎が春の間に蓄積した観察の積み重ねが、そう言っていた。あの男は、ハンドルを握って電車を走らせることを仕事にした男だ。家に帰って、子供が電車を好きだと笑う男だ。

夜中に無人の電車を動かして、六人を殺す男ではない。

そういう男の顔を、神崎は知っていた。

― 続く ―

次章「三 もう決まったことだ」——七月下旬、新聞に三浦功の名前が出た。「国鉄三鷹事件、主犯格として三浦功を逮捕」。神崎はコロナへ向かった。「三浦は関係ありません」——杉田は眉を動かさなかった。