桜島駅のシャトルバス乗り場には、朝8時の段階ですでに列ができていた。
「JR桜島線終点の桜島駅から万博会場西ゲートへのシャトルバス」——乗る前はそういう説明を読んでも実感がなかったが、バスに乗り込んでみると、これが合理的なルートだとすぐわかった。海のそばの道を走り、少し走ると夢洲の施設が見えてきた。
「島なんだ、本当に」と彩が窓から外を見ながら言った。
西ゲートは東ゲートより列が少なかった。入場ゲートを抜けると同時に、悠はスマートフォンを開いた。ガンダムパビリオンの当日予約は、すでに午前の枠が埋まっていた。「早い……」と呟いた。午後枠は12時解放らしかった。
「ポルトガル館、行ってみよう。エッグタルト」と彩が言った。
ポルトガル館のエッグタルトはSNSで話題になっていた。午前中に売り切れることが多いと書いてあった。列に並んだのは9時20分。40人ほど前にいた。
15分ほど待って、エッグタルトを二個買った。一個454円。焼きたてで、カスタードの部分が微妙にとろけていた。
「うまい」と悠は言った。
「これは……正直、すごい」と彩が言った。
アメリカ館は東ゲート側にあるが、待ち時間の表示を見て判断した。35分。まあ許容範囲だと思って並んだ。
展示のメインの一つは「月の石」だった。
アポロ17号が採取した月の岩石のサンプルが、透明なケースの中に展示されていた。1970年の大阪万博でも展示されたもの(の別サンプル)だとキャプションに書いてあった。
悠はその前で少し立ち止まった。
「これ、1970年の万博にも来てたんだって」と彩に言った。
「うん、読んだ。55年前か」
「おじいちゃんたちが見たやつと同じ月の石が、今ここにあるっていうのが、なんか」
「なんか、ね」と彩も言った。
彩はスマートフォンを向けたが、「写真撮っていいのかな」と止まった。「撮れると思うよ」と悠が言った。ガラスの反射で、うまく撮れなかった。それでも悠は三枚撮った。